日本四十七国めぐりの旅
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「にほん」とも、または「にっぽん」とも呼び、やや古風には「ひのもと」と呼び、 さらに古めくには「しきしま」「やしま」「あきつしま」「とよあしはらのなかつくに」などとも呼ぶこの国は、 本州、北海道、四国、九州ならびにあまたの離島、諸島、群島からなる島嶼国家である。
せまいとも言い山がちとも言い、それはその通りなのだろうけど、たづきのない男ひとつにはじゅうぶんもてあます広さがあり、 足を踏み入れたことのない地を挙げれば恥ずかしながら十指では遠く及ばない。
日ごろから口しげく玉垣の内つ国の子を称しておきながら、大八洲の地神に無沙汰を通すのも心苦しい。
なので、せめて詠めをもって詣でにかえ、神さまがたの機嫌を伺いたいと思う。
平成日本の広域行政区画たる四十七の都道府県をそれぞれ国に見立て、詠め奉っていこう。
北海道を手始めに海峡を越え本州に上り東北、関東、上信越と歩を継ぎ、最後は九州から沖縄に渡るのだ。
四十七の国にはそれぞれいくつもの詠めるべき町や里があるのだけれど、誘われるまま立ち寄っていてはいつまでも旅は終わらない。
口惜しくはあるけれど国ごとにつばらに詠めるのは良き時を待つことにして、一国二首までの限りとしよう。
賜るならば 歌はなれ 叶はぬならば 歌はなるな
道の奥なる陸奥国(むつのくに)のさらに奥なる陸奥国。竜飛崎に級長戸辺神(しなとべのかみ)吹き荒るる国。
青森に寿司はみし国。弘前に城めぐりし国。深浦に海を愛でし国。じょんがら染みし国。好みていくどか訪いし国。
陸奥国(むつのくに)。鹽竈(しおがま)のみやしろに塩土老翁神(しおつちのおじ)の招く国。
松島には曇りし国。仙台には宿処を忘れて彷徨いし国。女川にはただ茶を飲みし国。
出羽国(でわのくに)。雨さす最上に翁はやる国。月読命(つくよみのみこと)名にし負う山をしらしめす国。
今泉の跨線橋ゆり朝日連峰にかしこみし国。釜淵に雪の深さ尋ねし国。真室川にかさねて尋ねし国。
下総国(しもうさのくに)上総国(かずさのくに)安房国(あわのくに)。香取のみやしろに経津主(ふつぬし)大神まします国。
船橋の馬つ国に焦燥せし国。鴨川の魚つ国に賞賛せし国。浦安の鼠つ国に消耗せし国。
越後国(えちごのくに)佐渡国(さどのくに)。くがねめく瑞穂に宇迦之御魂(うかのみたま)神やどる国。
羽越線に海を愛でし国。米坂線に樹々を愛でし国。飯山線に土を愛でし国。只見線に雪を愛でし国。
遠江国(とおとうみのくに)駿河国(するがのくに)伊豆国(いずのくに)。浅間大神いかめしくもまぐわしき国。
熱海の浜風に吹かれし国。曳馬の城風に吹かれし国。浜名の湖風に吹かれし国。
近江国(おうみのくに)。近つ淡海に浅井比売のこうべ鎮ます国。ましらの神の鳥居めでたき国。
米原に雪ながめし国。米原に吹雪かれし国。米原になにごともなかりし国。
山城国(やましろのくに)丹波国(たんばのくに)丹後国(たんごのくに)。嵐山に月読(つくよみ)くまなくかかる国。
金閣寺、本願寺、梅小路、二条城、嵐山など物見するもふつに遊びたらぬ国。
河内国(かわちのくに)和泉国(いずみのくに)摂津国(せっつのくに)。蛭子(ひるこ)大神と八重事代主(やえことしろぬし) あいのえびすに賑わう国。
千日前に笑いし国。道頓堀に浮かれし国。天保山またぎし国。
摂津国(せっつのくに)丹波国(たんばのくに)但馬国(たじまのくに)播磨国(はりまのくに)淡路国(あわじのくに)。 御食向かう淡路に八洲の父かくらるる国。
城崎に柳愛でし国。城崎に湯浴みせし国。城崎にすずろ歩きし国。
大和国(やまとのくに)。磐余彦(いわれひこ)の行き着きし国。小碓(おうす)も旅人(たびと)も恋ほしむ国。
京都ゆり和歌山の道ゆきにまどろみつつ経し国。とかく恋ほしき国。
紀伊国(きいのくに)。五瀬命(いつせのみこと)たけびし国。名にし負う浦に赤人の手を遺す国。
橋本に息をつきし国。紀の川沿いに鉄路たどりし国。如何にしてまかりしか覚えぬ国。
出雲国(いずものくに)石見国(いわみのくに)隠岐国(おきのくに)。大己貴(おおなむち)の宮にもろもろの神ざざめく国。
縁も知らぬまま大己貴に詣でし国。出雲そばもとめし国。山陰線の客車にひたすら揺られし国。
筑前国(ちくぜんのくに)筑後国(ちくごのくに)豊前国(ぶぜんのくに)。八幡大神みあれの国。旅人(たびと)憶良(おくら)ら手を遺しし国。
生りし国。住まう国。なほ訪わざる地おおくある国。
肥前国(ひぜんのくに)壱岐国(いきのくに)対馬国(つしまのくに)。建御名方(たけみなかた)神 くんちに目を肥やす国。
異教のあらか物見せし国。雲仙の地獄物見せし国。ちゃんぽんカステラうまかりし国。
豊前国(ぶぜんのくに)豊後国(ぶんごのくに)。湯けむりに地獄をもてあそぶ国。
万年山に血のゆかりしのぶ国。豊後森に火器きず悼む国。かじか鳴く川筋のあらかにくつろぎし国。
日向国(ひゅうがのくに)。火瓊瓊杵(ほのににぎ)天降りし国。狭野命(さぬのみこと)東に発ちし国。
往昔の夏に遊びし国。いづこにか宿りし国。思い出おぼろなる国。
大隅国(おおすみのくに)薩摩国(さつまのくに)。隼人の胸肚いぶす桜島の国。
西鹿児島に降りし国。桜島の地わづかに踏みし国。西鹿児島に乗りし国。再訪のあらまし潰えし国。
冬籠り 鮒あぶらづき 春霞み 雲雀さへずり 夏時雨 かじか響もし 秋つ風 蜻蛉よらしむ
傾く陽に 翅はかがよひ 揺るほどに 穂の禾かぎらひ 宇迦のはら いよよかかやき 国のはら ましてかかやく
うつくしや この秋津しま とこしへの まほらなりこそ われらなくとも